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東京高等裁判所 昭和27年(う)4180号 判決

被告人 井原恒三郎

〔抄 録〕

弁護人控訴趣意第一点について。

仍つて按ずるに、訴因変更の許される限界は、刑事訴訟法第三一二条に規定するところの如く、公訴事実の同一性を害しない程度であつて、若し此の限度を逸脱し公訴事実が同一でない場合には訴因の変更は絶対に許さるべきではない。而して公訴事実の同一性の有無は、その罪となるべき基本的事実関係の同一性の有無により決せらるべきものと解すべきを相当とする。本件につき観るに、起訴状記載の公訴事実によれば「被告人は昭和二六年一月二〇日午後五時三〇分頃大宮市桜木町四丁目七四六番地先道路上において、酒に酔い正常な運転ができない虞があるのにかかわらず、小型自動四輪車埼第一五五〇号を運転し以て無謀な操縦をしたものである」と謂うにあるところ、原審第二回公判調書(手続)の記載によれば、検察官事務取扱検察事務官において、右起訴状記載の訴因中「被告人は昭和二六年一月二〇日午後五時三〇分頃」とあるのを「被告人は昭和二七年一月三日午後五時三〇分頃」と変更の申出を為し、裁判官がこれに対し、訴因変更許可決定をしていること洵に明らかである。而して原判決は、前記変更せられた訴因に基きこれと同一の認定をしていること判文上明らかである。元来犯罪の日時の如きは、訴因を特定する為めの一方法であつて、その変更は犯罪の基本的事実関係を左右するものではなく、従つて公訴事実の同一性を害しないものを普通とする。蓋し犯罪は概ねその客体たる被害者又は被害法益(被害物)、及び実行々為等により特定せられ、その犯行の日時の如きは、毫も犯罪の特定に関係なき故である。これを例えば、殺人罪において甲を殺したと云うことは一ありて二なく、又窃盗罪において甲被害者の甲品を窃取したと云うことは一ありて二なき故その犯行日時の如きは各当該犯罪事実の特定に殆んど無関係なる如きである。然るに本件の如き無謀操縱による道路交通取締法違反罪の如く特定の被害者等存することなく、あるは只、被告人(行為者)、無謀操縱行為、操縱にかかる自動車てふ場合の如きにありてはその犯行の日時は、当該犯罪事実と絶対的に不可分の関係にありて、その日時の如何は公訴事実の同一性の有無を決すべき最大の要因を為すと云うも過言ではない。蓋し酒に醉つての無謀操縱ということは、長日時の間には何囘でもあり得ること疑の余地なき故である。さればこれを前者と同一視することを得ないのであつて、その行為のありたる日時は不可分的に犯罪の要素を為すものと謂はなければならない。殊に本件におけるが如く、「昭和二六年一月二〇日」と、「昭和二七年一月三日」と謂うに至りては、その間一年間近くの差異あり而も本件記録の何れの面にもこれを単なる誤記又は思い違いと認めらるべき形跡の存するものなき以上、右の日時の変更は、公訴事実の同一性を害するものとなさざるを得ない。されば、原審は、検察官の請求にかかる訴因の変更は、不適法として却下し、変更前の訴因につき、審理すべきであつたのに、漫然これを許可した上、変更後の公訴事実に基いて審判したのは、審判の請求を受けた事件について判決せず、又は審判の請求を受けない事件について判決したものであつて、刑事訴訟法第三七八条第三号に該当するものと謂うべく、此の点の論旨は、その理由があり、原判決は到底破棄を免れない。

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